皮膚はいかに重要か(1)「真田丸は皮膚バリアの最後の砦
前田 学(八幡病院皮膚科部長)
大阪城本丸は、真田丸が撤去され、外堀が埋め立てられて間もなく落城したことはNHKの大河ドラマで皆様ご存じのはずです。
皮膚は表皮と真皮および皮下脂肪組織の三層でできていますが、それぞれに重要な役目を果たしています。この大阪城本丸は皮膚では真皮に相当し、真田丸や外堀は表皮のバリアといえます。この表皮バリアがあって初めて真皮の「本丸」を外敵から守ることができるのです。かつ、真皮の液性成分を外に逃さない重要な関門、つまりバリアでもあります。
この皮膚のバリアの重要性が声高だかに叫ばれ始めたのはここ十年ほど前からです。元来日本人は清潔好きで世界でも有名です。毎朝の洗顔に始まり、洗髪・入浴は日本人の生活スタイルの基本といっても過言ではないでしょう。
ところが、一生、風呂とは無縁の少数民族(アカ族など)や砂漠の民、入浴嫌いの中世フランス貴族はあまり知られていません。フランスでは体臭を消す目的で香水が発達したのもうなずける話です。
伊弉諾(いざなぎ)が亡くなった妻のいざなみを追って黄泉の国に入り、無残な姿の妻に失望してこの世で体を水で清めたことが入浴の始まりとされています。隠岐の島は女人禁制の神の島とされ、男子は素っ裸で海の中で体を清めて初めて入島が許されるのです。お手水も、神社参りの基本儀式ですが、この時、石鹸とたわしでごしごし手指をこする人はいないでしょう。つまりは水で清める儀式の延長上に私たち日本人の風呂好き・朝シャン好きの生活があるのです。
この歴史的事実がどこかに吹っ飛んでしまい、「奇麗にしないと皮膚病になる」とばかり、日頃せっせせっせと皮膚をこすり、皮膚バリアを痛めて皮膚炎を引き起こしている人のなんと多いことでしょう。たしかに汗や汚れを取ることは必要でしょうが、過ぎたるは及ばざるがごとしです。皮膚バリアを保護することが皮膚炎や皮膚疾患予防にいかに重要かおわかりいただけましたでしょうか。
次号(2)に続く、乞御期待ください。
参考:前田学著「元気な皮膚のつくり方」(オカムラ(有)、東京、ISBN: 9784990424008)