皮膚はいかに重要か(2)「皮膚常在菌は善良な市民」

皮膚はいかに重要か(2)「皮膚常在菌は善良な市民」

前田 学(八幡病院皮膚科部長)

前回、真田丸は大阪城本丸の守りの要というお話をしました。表皮の角層に相当するのが真田丸というわけです。この角層とその下の表皮は全体で紙一枚程度、0.1~0.2ミリの薄さで、一度破れると修復に各々2~3週間、合計で4~6週間もかかるのです。一カ所でも皮膚にひび割れやびらん・潰瘍を作ると、堤防決壊時、津波が内陸部まで押し入るように、直接外部から色々な刺激物や有害物質が真皮の本丸まで進入するのです。つまりは真田丸で表皮が完全修復されるまでの最低1カ月間、持ちこたえる必要があるのです。表皮は連続性が保たれて初めてその商品価値があるのです。どんなに一流な傘でも破れこうもり傘を買う人はいないはずです。

この角層は弱酸性ですから、アルカリ性の石鹸を使っただけでも皮膚障害を起こすのです。その影響は3日間にも及ぶという 研究者もいます。この表皮には酵母をはじめ常在菌が無数、うようよ住んでいます。一部に悪役の病原性細菌が混じっていますが、普段は善良な市民である常在細菌が秩序を乱さないように制御しています。ところが、善良な市民の数が減るとその隙に乗じて悪役がはびこるのです。このような現象は「イスラム国」発生に例えることもできます。

善良な市民が酵母で、角層を住居とし、もちろん毛孔内部まで住みついています。この酵母はリパーゼという脂質を分解する酵素の働きで遊離脂肪酸(FFA)を産生し、その一部を一般細菌(常在菌)の餌として与え、常在菌を増やして世の中の調和を保つ働きをしているのです。ちなみに酵母の仲間である麹菌は醤油、味噌、酒、鰹節などをつくるのに必須な菌です。私たちの体は60兆個の細胞で成り立っていますが、それ以上の微生物が全身各所に住みつき共存し、私たちの生存を手助けしてくれています。ちなみに腸内細菌は100兆個以上とされています。

このように私たちの体は単独では生存できず、調和が必要不可欠です。私たちの住む銀河系、太陽系もお互いに引力で絶妙なバランスを保って共存しているのと同じなのです。

次号もご期待ください。(3)に続く

参考:前田 学 著「元気な皮膚のつくり方」(オカムラ(有)、東京、ISBN: 9784990424008)

 

2017年4月15日